マッチングの鶏と卵問題を突破する4つの戦略
フリマアプリを思い浮かべてください。売り手がいなければ買い手は来ませんが、買い手がいなければ売り手も出品しません。マッチングの仕組みは、欲しい人(需要)と提供する人(供給)の両側がそろって初めて動きます。ところが両側は、お互いを待ち合ってしまうのです。この出発点の矛盾を「鶏と卵問題(コールドスタート問題とも言います)」と呼びます。
この記事を読み終えると、次の3つが分かります。
- 鶏と卵問題がなぜ構造的に難しいのか
- フリルやWantedlyなど実在のサービスが初期に打った具体策
- 自分のサービスでまず「どちらの側から集めるか」をどう決めるか
人が集まらないのは、あなたの力不足ではありません。仕組みそのものの構造の問題なのです。ここからは、その構造をどう崩すのか、4つの戦略を見ていきましょう。
そもそも「鶏と卵問題」とは何か
マッチングの場は、片側だけでは機能しません。だから両側を同時にそろえたくなります。でも一度に追うと、どちらも中途半端になり、来た人が「相手がいない」と去ってしまうのです。
突破の鍵は、実はシンプルです。両側を同時に追わず、まず片側を厚くして、その人だかりでもう片側を引き寄せればいいのです。それでは4つの打ち手を順に見ていきましょう。
戦略①供給側を先に埋める:フリルが「売り手」からそろえた理由
最初の打ち手は、供給側(出品者やサービスを提供する側)を先にそろえる方法です。売り手には「お金を稼げる」という動機があるので集めやすいですよね。買い手は、商品が並んでいて初めて来る理由ができます。空の棚に人を呼んでも、すぐ去られてしまうのです。
フリマアプリのフリル(FRIL)は、この供給先行を地で行きました。最初に狙ったのは、雑誌の読者モデルたちです。撮影用の衣装を自腹で買い、一度着たら手放したい彼女たちは、放っておいても出品者(供給側)になってくれました。人気モデルがブログで紹介したときには、いつもは数百人だった一日の登録が1,000人を超えたとも言われます。
個人が学べるのは、人を呼ぶ前に、まず見える在庫を用意しておくことです。商品でもサービスメニューでも過去の作例でもかまいません。3件でも「見るものがある」状態を作ってから集めましょう。
戦略②需要側を先に集めて供給を呼び込む:Wantedlyが作った流れ
戦略①とは逆の発想もあります。需要側(使いたい人や求職者)を先に集めて、その人だかりで供給側を呼び込むやり方です。需要側が見えていると、供給側も「ここに顧客がいる」と参加してくれます。
採用サービスのWantedlyは、この順番を選びました。募集ページで給与・待遇の記載をあえて禁止し、「条件」ではなく「理念への共感」で動く求職者を先に集めたのです。2011年ごろにはネットメディアで紹介され、2週間で1万人を超える登録があったそうです。
ただし、需要側だけ集めても、提供されるものがなければ人はすぐ去ります。間を置かず供給側を口説くのがコツです。個人なら、事前登録リストやSNSのフォロワーで関心層の多さを見せ、提供側へ声をかけましょう。
戦略③ニッチに絞って密度を上げる
3つ目は、狙う範囲をうんと狭く切る方法です。最初から全国・全ジャンルを狙うと、「近くに相手がいない」スカスカの状態になってしまいます。範囲を絞れば、少人数でも「自分の周りは相手で埋まっている」と感じられます。これが、盛り上がりに必要な最低限の人数、いわゆるクリティカルマス(集まって初めて使える人数のこと)です。総数より密度が効きます。
象徴的なのがFacebookです。2004年の公開当初、登録できるのは「ハーバード大学の学生だけ」でした。狭く切ったぶん校内の密度は一気に高まり、最初の1か月で学部生の半数を超える人が登録したと言われています。そこから一校ずつ広げていったのです。
あなたも同じように切れます。たとえば地理(住む市や沿線)、カテゴリー(ジャンル特化)、コミュニティ(同じ資格や業界の仲間)で区切る手があります。どれか一つで小さく区切り、まず1区画だけ埋め切る発想で始めてみてください。
戦略④運営者自身が片側を埋める
両側がどうしても自然発生しないなら、最後の手があります。運営者であるあなた自身が、片側を手作業で埋めてしまうのです。これは「コンシェルジュMVP(本来はシステムに任せる部分を、まず運営者が手作業で代行して小さく試す方法のこと)」と呼ばれます。
フードデリバリーのDoorDashは、まさにこれを地で行きました。配達員がいない状態で、創業した学生たちが自分で料理を取りに行き、客に届けたそうです。掲示板のRedditも、創業者たちが最初の見本投稿を自分で用意したという話があります。人をだますためではなく、場の使い方の手本を自分で示しただけです。
大手も、最初はこうして泥臭く手で埋めていたのですね。運営者自身が提供者を兼ねるのは、個人の立ち上げではむしろ王道です。地味ですが、1件でも「取引が動いている」と見せられれば、次の人は安心して入ってきてくれます。
まとめ:4つの戦略から、自分のサービスで「まず片側」を決める
鶏と卵問題は、両側を同時に追いかけるから詰まります。突破策は「片側から崩す」、これに尽きます。①は供給を先に埋めるフリル型、②は需要を先に集めるWantedly型、③は範囲を狭く切るニッチ集中、④は運営者が自分で片側を埋めるやり方でした。
まずは「自分のサービスは、どちらの側からなら先に集められそうか」を1つだけ決めてみてください。どちらが正解かは、正直やってみないと分からない部分もあります。それでも、決めてしまえば立ち上げの動きはぐっと具体的になるはずです。
両側がそろい始めたあとは、その場をどう機能させ続けるかが次のテーマです。マッチングプラットフォームの設計に興味があれば、関連記事も覗いてみてください。